diary

“Quem deseja ver o arco-íris, precisa aprender a gostar da chuva.” @pyi46

case1『不並び』

f:id:naotoasuka:20180915112624j:image

 

優しい彼女は夢を見る。

どんな夢なのかを私は知らない。

 

私は小さい頃からキラキラしたものが好きだった。キラキラした服を着て、可愛いと褒められるのが何よりも嬉しかった。

褒められる事が好きな私は、勉強も頑張った。

いい点数を取って帰ると、お利口さんだねと褒めてもらえる。

自然といい高校に入り、そして華やかな看護師に憧れ、医学部を目指した。

そこまで順調に来ていた筈の人生に迷いが生じた。

浪人生活。誰からも褒めてもらえない事がつまらなくて、ふと、キラキラしたものが好きだったあの頃を思い出すようになっていた。アイドルになりたいって強い思いがあった訳じゃない。ただ、キラキラした服を着て、可愛いねと褒めてもらいたくて、私はその世界に飛び込んだ。

その世界は思い描いていたものとは少し違っていた。キラキラした光も沢山あるけど、裏側には光の当たらない影も沢山あった。キラキラした世界で笑ってる子達の明るい声を聞きながら、影で泣いた日もあった。

 

彼女はいつもキラキラしていた。ずっと表舞台で光を浴びる彼女は、羨ましくもあり、憧れてもいた。

同年齢の彼女と私は一緒になる事が多かった。彼女は決して気取らず、同じ目線で接してくる。私は彼女を好きになった。

選抜でも、彼女は隣になる事が多かった。それが私は嬉しかった。ある時、彼女がセンターに立つことになった。私はその隣。不安から流す彼女の涙を見て、支えてあげなあかんと思った。

選抜の中でも一番前に立つ彼女と私。キラキラした世界が私を待っていた。

だけどいい事はずっとは続かない。

少しづつ、彼女と私の間に差が出来てきた。彼女はいつも一番前。私は彼女の後ろ姿を見ることが多くなった。本当はその差は最初からあったのに、いつも隣にいたからそれを忘れていた。隣にいるのが当たり前やと思っていた。

私は寂しくて、現実から逃げようとした。

嫌なことがあると違う世界に行きたくなる。それは浪人時代にアイドルになろうとしたあの時と同じだった。それはいい結果を招く事もあるけど、悪い結果になる時もある。

結末は最悪だった。

慣れないお店に入って、慣れないお酒を飲んだ。

そして私は取り返しのつかない事をしてしまった。

 

彼女の顔を見るのが怖かった。だけど、

「どうして話してくれなかったの?」

彼女は私を怒った。失望もせず、呆れもせず、見放す訳でもなく、私を叱った。私に謝る余地を与えてくれた。彼女の優しさに私は泣いた。

 

毎日のように一緒に居ても、毎日好きが増していく。好きな気持ちは溢れ出て止まらなかった。

 

この世界は時々、大切な人が離れていく。

大切な人の最後の姿を、隣にいる彼女に重ねた。

いつか彼女も去っていってしまうのだろうか。想像しただけで怖くて、涙が止まらなくなった。

私は縋るような目で彼女を見た。

「そんな顔しないの」

私の気持ちを知ってか知らずか、彼女は泣いてる私を優しく抱きしめた。

 

久しぶりに2人きりの仕事があった。

ある雑誌のインタビュー。

厚顔な記者が無配慮な質問をぶつけた。

「卒業は考えてらっしゃるんですか?」

もしかしたら、あの時の私の縋るような表情の意味に、彼女は気づいていたのかもしれない。彼女は私をちらりと見て、記者の質問に笑顔で答えた。

「私はまだここでやりたい事があるので」

 

優しい彼女は夢を見る。

どんな夢なのかを私は知らない。

やりたい事がなんなのか、それを聞きたくなかった。それを知ってしまったら、それが叶った時に彼女が居なくなってしまう事も知ってしまうから。

 

そして私にも夢が出来た。

彼女の夢が叶うまで、彼女のそばにいること。

 

隣にいるとまた彼女を見失ってしまうかもしれない。

だけど、後ろにいるのは寂しいし、きっと彼女も寂しがる。

だから彼女のほんの少しだけ斜め後ろ、いつも彼女を見れる場所で、彼女の夢を見届ける。

 

「ほら、行こ」

彼女が手を差し出す。

「うん」

私は笑顔で手を握る。

 

彼女が半歩だけ前に進んだのを見て、そして私は歩き出す。

 

 

────────

 

1666文字でした(誤差の範囲内)

 

※この物語はフィクションです