diary

“Quem deseja ver o arco-íris, precisa aprender a gostar da chuva.” @pyi46

case3『隣』

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優しい彼女は夢を見る。

どんな夢を見てるのかな。

私にとってこの時間は何よりも幸せな時間だった。

 

私はここがどんな世界なのか知らずに飛び込んだ。

どうしていればいいのかも、何をすればいいのかも、何一つ正解が分からないまま、ただ毎日泣いていた。ひたすらに泣いていた。

 

彼女は泣いている私を見て笑っていた。

最初は酷い人だと思った。だけど、私が泣いてる間はずっとそばにいてくれた。笑いながら頭を撫でて、笑いながら優しく抱きしめてくれた。

気がつくと私は、彼女にずっとそばにいて欲しいと思うようになっていた。

 

 

私は昔からよく「変わってるね」と言われる。

何が変わってるのか私には全然分からない。

私に言わせれば、変わってると言ってくる人達の方が変わってる。

 

彼女は私のことを一度も「変わってる」と言ってこない。私のことを変わった人間だと思って接してこない。1人の人間として、偏見なく私を受け入れてくれる。

私は彼女を好きになった。

 

「大好きです」

思ってることを何でも表に出してしまう私は、彼女に大好きなことを伝えた。けど、

「はいはい、ありがとね」

と軽くあしらわれた。

「本当に大好きです」

「わかったわかった」

適当に返事をしてくるけど、嬉しそうな表情をしてるのを見逃さなかった。

私はますます彼女を好きになった。

 

楽屋でも、移動中でも、彼女はいつも本を読んでいた。

「ねぇ、ちょっと走りませんか?」

私は彼女をジョギングに誘った。

「…本気で言ってるの?」

「本気です」

彼女は呆れた表情で私を見た。

「1人で走ってきなよ。私は本を読むから」

「嫌です、一緒に走りたいです」

私は強引に腕を引っ張った。

呆れ顔が次第に諦め顔になり、「あーもうわかったよ」の一言で、彼女は折れた。

「私をジョギングなんかに誘う人間はあんたが初めてだよ」

彼女はため息と同時に愚痴をこぼしたけど、私を「変わってるね」とは言わなかった。

 

私はここをどんな世界なのか知らずに飛び込んだ。

不安で怖くて泣いてばかりだったけど、沢山の優しさが私を救ってくれた。

彼女が居なかったら、私は未だに毎日泣いていたかもしれない。

 

移動車の中、隣に座る彼女が本を読み始める。

暫くすると、うとうとし始めて、ハッと目を覚まして首をぶんぶんと振り、また本を読み始める。

私はその様子を静かに見る。

暫くすると、またこっくり、こっくりと頭を前に傾ける。

それが何度か続き、ついに本をパタリと閉じて、私の肩に頭を預けて寝息を立てる。

 

優しい彼女は夢を見る。

どんな夢を見てるのかな。

私にとってこの時間は何よりも幸せな時間だった。

 

彼女は先輩だけど、私は彼女の隣にいたい。

前でも、後ろでもなくて、隣に。

 

「着きましたよ」

車が止まり、幸せそうな表情で寝ていた彼女を起こす。

「ん…ありがと…」

寝ぼけ眼をこする彼女の手を取って、そして私は歩き出す。

 

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1225文字でした(誤差の範囲内)

 

※この物語はフィクションです

 

 

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今回で考えていたお話は終わりです。

 

書き出しから「夢」をメインにした話にしようかなと考えて、「夢を見てる優しい彼女」と「歩き出す私」の関係性が乃木坂ちゃんっぽいなって思って話を考えてみました。

 

夢を「目指している夢」「探す夢」「寝てる時の夢」と分けてみて、

「夢を見る彼女」と「私」との関係性を、「ほんの少しだけ斜め後ろ」「遠くに見える背中」「隣」としてみました。

 

勝手なイメージで書いたので、違うだろと思う方もいらっしゃると思いますが、暖かい目で読んでいただけたら有難いです。

 

短いながらも久しぶりに物語的な事を考えたので、少し楽しかったです。

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。